バラエティー番組や情報番組を見ていると、メーン映像を映す画面のわきに別画面が小窓のように出現し、スタジオのタレントたちの表情が映しだされることが多い。
この小窓は"ワイプ"と呼ばれる演出手法で、いまや民放ばかりかNHKでも定着し始めている。
もちろん中継先とスタジオを結ぶ際や、自分が作った料理を別の場所にいる出演者が試食するような時には、そうした二つの画面を活用して表情を伝えるのは意味がある。だが、必要性がほとんど感じられない場面で、ワイプをなぜ多用するのだろう?
視聴者の目をひきつけるには有効?
番組の制作者側からすれば、少しでも画面に視聴者の目をひきつけるために有効な演出と考えているようだ。また「若い視聴者=タレント好き」との思いもあるらしい。しかし、せっかく面白い映像が流れているときに、タレントの顔なんて見たくないし、肝心の映像に小窓がかぶって見づらいことも少なくない。
そこでこうした演出を批判するコラム記事を4月16日付の夕刊に掲載したところ、多くの読者から記事を支持する手紙をいただいた。
「画面が狭苦しい」
ある男性は「ギャラが安くてもとにかく出演したいタレントや芸能事務所の意向と、制作サイドの思惑が絡んで、みんな分かっていながらなれ合いで番組を作っているから、ワイプ演出がなくならないのでは」と厳しかった。60代の主婦からは「地デジ化でせっかくテレビを大きくしたのに『小窓』により、画面が狭苦しくなり、さらに本画面の登場人物の顔にかぶったりするのは本末転倒。作り手の不安と共に、与えるものを見ろという傲慢ささえ感じる」との声が届いた。ほかにも「見たくもないタレントの顔が出ると邪魔だ」「前々から苦々しく思っており、書いてくれてモヤモヤした気持ちが晴れた」などなど。普段、コラムに手紙を頂くことはあまりないだけに驚いた。
メリットの有無を吟味して使っているのか
バラエティー番組や情報番組では、発言者の言葉がテロップでほとんどそのまま表示されるのが当たり前になっている。聴覚障害のある方だけでなく、健常者にとっても周囲に雑音が多い場所で視聴する時には、こうしたテロップが役に立つことがある。だが、映像に不必要に大きな文字がかぶるのは、せっかくの画面が見づらくなる。それに輪を掛けてワイプ演出を施し、小窓にタレントらの顔を映しだすのは、さらに画面を汚すことになるまいか。
こうした意見をテレビ局側にぶつけると、読者同様の嫌悪感を示す人もいれば、「もう目が慣れてしまったから、今さらなくすわけにもいかない」という人も。NHKの中には「民放もやっているから……」と、ややネガティブな理由を持ち出す職員もいた。
だがこの点、NHKのある幹部は「制作サイドが、ワイプ演出のメリットの有無を吟味して使っているのか疑問も残る。効果を考えずに何となくワイプ演出を使っていたり、使うものだと思いこんでいたりする制作者もいるかもしれない」と指摘。演出の効果を十分検討する必要性を説く。じつにもっともな見解で、末端の制作者にまでその考えが浸透するのを祈るのみだ。
原点に立ち帰った番組作りを
テレビ番組は、人間と同じで、いくら着飾っても中身が伴わなければ興味を持たれない。素材のつまらなさをごまかすために、タレントの顔を小窓にちりばめるのはもうやめてもらいたいし、せっかくの映像の魅力をかえって減殺することにつながる。とにかく小手先の演出にこだわらず、原点に立ち帰った番組作りに精を出してほしい。それがテレビマンの使命であろう。
読売新聞文化部 旗本浩二
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